結局父は飲み込めないことが判明しました。もはや口から水分や栄養を摂ることができないのです。今は病院にいるので、何かしらの医療処置をするはずだ、と妹は言います。でも点滴のために痰の吸引をやるのは可哀想だと言います。痰の吸引は、管をインフルエンザの検査の時のように鼻の奥に通し、そのまま喉の奥まで管を差し込むらしく、それは痛く苦しいそうです。妹と母はたまたまその場面に遭遇してしまい、ゾッとしたそうです。それをこれ以上やるのはしのびない、と。その件は私も同意です。
病院に入院時、主治医の先生から、積極的な延命はせず本人が苦しまない方法で眠るように逝けるように尽力する、と言われていました。
しかし、妹は「それは飲み込みできるかできないかわからない時点での話で、飲み込みができないとわかった今、方針をもう一度先生から聞きたい」と言います。「死は特別なものだ。こんな大事なことを電話で話してよろしく、みたいなのは私嫌なの」と。「お姉ちゃんも来て」と言います。断ったらまた「薄情、家族の死に際に仕事を優先するなんて人でなし」と激昂するのが目に見えているので、「いいよ」と返事しました。会社の方にも父が危篤というのは伝えてあるので、まぁ問題はありません。
ただ、同じ話を聞くだけ、確認するだけ、多分5分で終わる内容のために、父の為ではなく妹の気持ちが済む為に行く、と私は思いました。
当日は朝からデザインミーティングがあり、13:00にミーティング終了し、その後山積みの確認事項を優先順位の高いものだけバババッとこなし、お昼も食べずに都内から出発しました。電車だけだと1時間10分程度ですが、県を跨いでかなりの距離です。
バスに乗る10分前にバス停に着いたので、買っておいたパンを一つ口に押し込み、アポの30分前に病院に着きました。その間、妹からは「遅刻はまずいからね」「今どこ?お姉ちゃんが着き次第先生の話があるから」とプレッシャーLINEが届きました。
病院では、なんとなく、看護師さんはどこかやれやれという感じでをかもしだしながら、「どこにしましょう?空いてる部屋でかまいませんか?」と言い、空いている1人部屋のベッドをずらしてイスと小さいテーブルを設定して、「こちらでお待ちください」と出て行きました。
ナースステーションに医師が看護師とのんびり雑談しているのが見えました。
結局アポ取った16:00まで医師は部屋に来ませんでした。母は、「もう最初に話を聞いた通りにお願いします、でいいのよ。あれやこれやお願いしてもしょうがないし、印象も悪いし。」と言います。私は全く同意です。私が「じゃあ今日3人揃って何しに来たの?ってなるね」と言うと、母は「そうよ。お医者さんは忙しいのに」と嘆いています。待ち時間は3人ともなんともいたたまれない気持ちになりました。私が「えーっと今日来た理由は、飲み込みができないことが判明したので、今後どのような処置がなされるのかを確認する。吸引は避けたい、ということを言えばいいね」と改めてまとめると、妹は「そうそう!」と言い、そうこうしているうちに医師が入ってきました。
医師の一言目は「先週入院時に主治医から今後の方針を全てお聞きですよね?」でした。やっぱり病院に流れるそこはかとないやれやれ感をかんじたのは正しかったようです。
妹はさっきの話をして、先生は「点滴も徐々に水分を減らして徐々に脱水にしていき、そうなると痰も出ないし、脱水も進んでくるとボーッとなって眠るようになるので、本人はそれが1番楽だと思います」とさらに丁寧に答えてくれました。
それを聞いて妹も私たちも安心し、「わざわざお忙しいところお時間作っていただいてありがとうございました」と5分程度で面談は終わりました。
ついでにお見舞いをして帰りました。
私は病院から自宅までも1時間以上ありますから、とんぼ返りです。息子が1人で留守番してますから。
帰りのバス待ちで母と私が「先生が最初の一言でもうすでに今後のこと話してますよね?って言ってたね」と言うと、妹は「え?そんなニュアンスでは言ってない、と私は捉えている」と言い張ります。これ以上言っても無駄なので2人とも黙りました。
帰り、つくづく(電話で済んだ話だろ)と思いました。でも電話だと軽い感じがして嫌だというなら、1人で行けばいい、と私は思います。3人も揃って5分で終わる確認のために、食事も抜いて移動に割かれた。今日はなんだったの?という気分です。もちろん妹にそんなことを言ったら、葬式に出られなくなりそうなので、もう少しの辛抱と思って我慢します。
妹は毎日毎日お見舞いにいって、1時間半も病室にいたりするらしいです。目を輝かせて「お父さんが喋った」とか「帰ろうとしたら嫌がるから帰れなかった」とか言います。
昨日も病院にはお見舞いの人など1人もいませんでした。そんな中毎日長時間いる妹は病院から見るとどんな風に映っているのでしょう。
少なくとも私には何かおかしい、という思いがずっとあります。